大相撲の呼出とは?職人技の裏側と驚きの年収・階級を徹底解剖
大相撲中継を見ていると、館内に甲高く鳴り響く拍子木の音とともに、独特の節回しで力士の名を朗々と響かせる男たちの姿が目に入ります。「東~、○○山~」と伸びやかな美声で取組を告げる彼らこそが、大相撲の屋台骨を支える専門職「呼出(呼び出し)」です。
土俵の上で華やかにスポットライトを浴びる力士や行司の陰に隠れがちですが、実は土俵の築造から取組進行、懸賞旗の掲揚、太鼓の連打に至るまで、本場所の運営に欠かせない全実務を背負う究極の職人集団でもあります。本稿では、一般にはあまり知られていない階級制度や年収格差の実態、「どうすればなれるのか」という採用条件、そしてあの美声が生まれる背景まで、現場記者の視点から余すところなく解き明かします。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:呼出の仕事は呼び上げだけでなく、土俵作りから懸賞旗持ち、太鼓打ちまでこなす大相撲屈指の「何でも屋兼職人」。
- 要点2:年収は序ノ口の約200万円前後から最高峰の立呼出では1,000万円超まで及ぶ、極めて厳格な9階級の年功序列社会。
- 要点3:採用枠は「定員45名・義務教育修了以上19歳未満」という極めて狭き門で、部屋での共同生活と過酷な下積みが必須。
【何でも屋にして究極の職人】土俵作りから懸賞旗まで多岐にわたる呼出の仕事内容
呼出のトレードマークといえば土俵上での「呼び上げ」ですが、その本質は本場所の土台を文字どおりゼロから作り上げる重労働の現場にあります。場所前の風物詩である土俵作り(土俵築き)は、呼出全員が総出で行う神聖かつ過酷な肉体労働です。
「荒木田土(あらきだつち)」と呼ばれる粘り気の強い土約45トンを用い、ビール瓶の底で叩いて表面を固め、勝負俵や徳俵をミリ単位の狂いもなく埋め込んでいきます。重機を一切使わず、木胴やタコと呼ばれる伝統的な道具と自らの手足だけを頼りに平滑な土俵を作り上げる技は、一朝一夕には身につかない無二の職人技です。
本場所が始まってからも、彼らの激務は休む間がありません。
結びの一番に向けて熱気を帯びる館内を、スポンサーの懸賞旗を掲げて土俵の周りを整然と一周する役割も呼出の大事な仕事です。旗が風に煽られて絡まないようピンと張る指先の力加減、前の人間と等間隔を保ちながら歩く呼吸など、そこにも計算された所作が存在します。このほか、土俵上の掃き清め、力水や清めの塩の補充、時間計測、さらには朝と夕方に櫓(やぐら)の上から打ち鳴らす「寄せ太鼓」「跳ね太鼓」の演奏まで、本場所の進行に関わるほぼすべての裏方業務を担っています。
【給与格差と序列一覧】立呼出から序ノ口までの階級制度と気になる年収事情
力士や行司と同様に、呼出の世界も完全なるピラミッド型の階級社会です。日本相撲協会の規定によって9つの階級が厳格に定められており、土俵に上がれる取組の格や待遇に大きな格差が設けられています。
| 階級 | 担当する取組の目安 | 推定年収(手当・賞与含む) |
|---|---|---|
| 立呼出(たてよびだし) | 結びの一番(横綱の取組) | 約900万〜1,200万円 |
| 副立呼出(ふくたてよびだし) | 大関戦(結び前の一番) | 約700万〜900万円 |
| 三役呼出 | 三役(関脇・小結)の取組 | 約600万〜750万円 |
| 幕内呼出 | 前頭の取組 | 約450万〜600万円 |
| 十両呼出 | 十両の取組 | 約350万〜450万円 |
| 幕下呼出 | 幕下の取組 | 約250万〜320万円 |
| 三段目・序二段・序ノ口呼出 | 下位力士の取組 | 約180万〜240万円 |
入門したばかりの若手(序ノ口〜三段目)の月給は、相撲協会の規定手当ベースで月額14万〜18万円前後にとどまります。ただし、呼出は各相撲部屋に所属しているため、衣食住の生活費は基本的に部屋から支給され、若手のうちは私生活でお金を使う機会も限られます。
年齢と経験を重ねて幕内呼出以上へと昇格すると、手当や各種ボーナスが上乗せされ、一般的な会社員の平均年収を上回る水準に達します。最高位である「立呼出」ともなれば、長年の功績と卓越した技能が評価され、年収1,000万円の大台を超える待遇となります。下積み時代の厳しさと引き換えに、腕一本で最高峰まで上り詰めた職人には相応の報奨が用意されている構造です。
【なぜあんなに美声なのか?】拍子木と扇子に込められた粋な技術と呼び上げの極意
静まり返った館内にスーッと通り抜ける呼び上げの声は、なぜマイクを通しても割れず、どこか哀愁を帯びた澄んだ美声に聴こえるのでしょうか。その秘密は、呼出特有の腹式呼吸と独特の「節回し」にあります。
西洋音楽のような楽譜は存在せず、先輩呼出の声を聞き、自らの喉で真似て体得していく口伝の修行が基本です。喉声ではなく横隔膜を押し上げて声を出すことで、広い国技館の吊り屋根に向かって効率よく音が反響する発声法を徹底的に叩き込まれます。四股名を呼び上げる際、母音を長く伸ばしながら音程を揺らす伝統的な節は、観客の耳に言葉を明瞭に届けるための計算された音響技術でもあるのです。
そして、呼び上げの手元を飾るのが拍子木(ひょうしぎ)と扇子(せんす)です。
呼出が腰に差している扇子は、単なる飾りではありません。呼び上げの最中は胸の前にしっかりと構え、声を張り上げた際に口元や表情の崩れを隠すことで、土俵上の品格を保つ役割を持ちます。また、手に持つ拍子木は硬質な白樫(しらかし)の木を長年乾燥させて作られた特注品で、呼出自身が手入れを施しながら愛用します。力士を土俵へ促す「チョン、チョン」という澄んだ打撃音は、木目の密度や打ち付ける角度のわずかな違いで音色が激変するため、音を鳴らすだけでも熟練の感覚が求められます。
【呼出になるには?】定員45名の狭き門と日本相撲協会の採用条件・定年規定
特殊な技能を持つ呼出ですが、志望すれば誰でも簡単になれるわけではありません。日本相撲協会の規定により、極めて厳しい門戸が設定されています。
第一の壁となるのが、日本相撲協会の定員規定です。呼出の総定員は原則として「45名以内」と定められており、誰かが引退・退職して欠員が出ない限り、原則として新規の採用枠は生じません。
具体的な採用条件は以下のとおりです。
- 年齢制限:義務教育を修了した満15歳以上、19歳未満の男子であること。
- 所属先:相撲部屋への入門が必須(力士と同様に親方の弟子として生活する)。
- 定年規定:原則として満65歳で停年退職。
応募者はまず希望する相撲部屋の門を叩き、親方の推薦を得たうえで相撲協会に採用届を提出します。19歳未満という厳しい年齢制限が設けられているのは、過酷な土俵作りの基礎体力を若いうちから培い、部屋の厳しい上下関係に順応させる必要があるためです。高校を卒業してすぐのタイミングが実質的なラストチャンスとなります。
【現在の立呼出とイケメン呼出】歴代の系譜と「推し」を集める注目の若手たち
呼出の序列の頂点に君臨する「立呼出」は、行司の木村庄之助や式守伊之助と同様、大相撲の儀礼と権威を象徴する存在です。近年では世代交代が進み、長い空白期間を経て2024年に次郎が昇格したのち定年を迎え、現在は克之(かつゆき)が立呼出として結びの一番の呼び上げと土俵の最高責任者を務めています。
歴代の呼出を振り返ると、昭和から平成にかけて独特のかすれ声でファンを魅了した「名物呼出」が幾人も存在しました。彼らの熟練した呼び上げは、取組前の緊張感を極限まで高める国技館の風物詩としてファンの記憶に深く刻まれています。
一方で、近年の相撲ブームを牽引する女性ファン(スー女)の間では、「イケメン呼出」に対する注目度が急上昇しています。
涼しげな目元と所作の美しさで人気の高い利樹之丞(りきのじょう)や照彦、端正な顔立ちと伸びやかな高音で場内を沸かせる若手呼出など、推しを見つけて本場所に足を運ぶファン層が定着しました。伝統衣装である着流しに裁着袴(たっつけばかま)を粋に着こなす立ち姿は、現代の土俵に若々しい華やかさを添えています。
【伝統の光と影】厳しい部屋暮らしと過酷な下積み|途中退職の理由と真相
華やかな土俵姿や美声が称賛される一方で、呼出の世界は決して平坦な道ばかりではありません。ときおり報じられる若手・中堅呼出の「途中退職」の背景には、伝統社会ならではの厳しい現実が存在します。
呼出は力士と同じ相撲部屋に所属するため、生活の拠点は部屋の合宿所です。入門から十両呼出クラスに昇進するまでの10〜15年以上もの間、大部屋での集団生活を余儀なくされ、雑用や掃除、ちゃんこの準備といった下積みに追われます。プライベートが極端に制限される環境に適応できず、志半ばで土俵を去る若者も少なくありません。
また、肉体的な負荷の大きさも深刻な課題です。猛暑の名古屋や極寒の地方巡業先でも、腰を屈めて固い土を何時間も叩き続ける土俵作りは、慢性的な腰痛や膝の故障を引き起こします。体力の限界を感じて若くして引退を決断するケースや、指導を巡る人間関係の摩擦が退職の真相となる例も過去には散見されました。土俵上の美しい所作は、こうした過酷な下積みを耐え抜いた者だけが見せられる強さの上に成り立っています。
【呼び出し 相撲】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:呼出と行司の具体的な役割の違いは何ですか?
A1:行司が「取組の勝敗を裁く審判役」であるのに対し、呼出は「力士を土俵に呼び上げ、土俵そのものを管理・保守する現場監督」です。装束も異なり、行司は烏帽子に直垂(ひたたれ)を着用して軍配を持ちますが、呼出は裁着袴に草履履きで、手には拍子木と扇子を持ちます。
Q2:懸賞旗を持って土俵を回る際、順番や持ち方のルールはある?
A2:懸賞の申込み順序やスポンサーの契約規定に基づき、掲出順が厳格に決まっています。旗を掲げる呼出は、歩幅と歩調を前の呼出と寸分違わず揃え、懸賞旗の文字が正面・東・西・向正面の四方から美しく見えるよう、指先でピンと張った状態を維持しながら土俵の周りを歩きます。
Q3:もし呼び上げの途中で声がかすれたり、出なくなったらどうする?
A3:本番中に声が出なくなっても、取組を止めることはできません。日頃から喉の保温やうがい、のど飴の常用など、アナウンサー以上の厳重な喉のケアを行っています。重い風邪などでどうしても声が出ない場合は、同格または下位の呼出が緊急で代役を務める緊急措置が取られます。
まとめ:土俵を支え続ける職人集団「呼出」の粋と未来
大相撲の呼出は、単なるアナウンサーではありません。土俵を作り、土俵を清め、力士を呼び込み、懸賞旗を掲げて太鼓を叩く――相撲興行のあらゆる血管を巡る血液のように、現場のすべてを循環させている屋台骨です。
定員45名という限られた枠のなかで、若手のうちから泥まみれになって土を叩き、厳しい部屋の掟を守りながら伝統の美声を磨き上げる。土俵の上に立つ彼らの一挙手一投足には、数百年の歴史に裏打ちされた職人の矜持が宿っています。次回の大相撲観戦では、土俵中央の力士のぶつかり合いだけでなく、所作の隅々に「粋」を漂わせる呼出たちの職人技にぜひ目を凝らしてみてください。 (出典: 呼び出し 相撲(Yahoo!ニュース))